書き溜めてた小説を公開してみる。
キーワードは似非中世ファンタジー(魔法はないよ!)、愛憎、弟×兄、王宮モノ…な感じかな。ほぼBLだけど甘くはないよ!
追記からプロローグ的なお話。
国王危篤の報が兄弟に届いたのは、まだ薄暗い早朝のことだった。
「父上……っ!」
まだ老齢にも達していない若々しい男盛りの顔には、青白い死の翳りが見えていた。浅く胸を上下させ、うめき声をあげる父に思わずアズハルトはとり縋る。
「やめなさい、アズハルト」
「しかし、兄上…!」
敬愛する兄だったが、この時ばかりは反論した。
非難の眼差しで彼を射る。しかし、血の気を無くし、唇を引き結んだその表情に何も言えなくなった。うつむいて、感情を抑える。
兄に比べ、アズハルトは自分の感情を御するのが苦手だった。兄の背を追い越し、外見はもう大人と変わりないが、こうやって、いつも18という年齢相応の未熟さを思い知らされる。
「陛下…陛下ぁ……っ」
一際大きなうめき声に、手を握り続けていた寵姫が栗色の髪を揺らしてすすり泣いた。兄弟の母である王妃はまだ到着していない。今頃、愛人のベッドで眠っているのだろうか。女の表情をする母の顔が容易に浮かび、二人の胸に苦い思いが広がる。
そんな彼らの思いは余所に、子供には恵まれなかったが、王の愛情を一心に受けた若い寵姫は、美しい顔を涙で歪ませ王を呼び続けた。
「…ルイー、ゼ………」
「はい! 私はここに…陛下のお傍にいます!」
色の無い唇を震わせ、紡いだ声は――一国の主というには、驚くほど弱々しい。
「……は……」
かすかな声。一言も聞き漏らすまいと、彼女は涙をぬぐい顔を寄せた。
おそらく最後になるであろう言葉に、静寂が張り詰める。
「次の、王、は…」
二人の王子にも聞こえるよう、ルイーゼは涙をこらえ遺言を伝えた――――――はしばみ色の瞳が、驚きに見開かれる。
「次の王は………アズハルト、王子……」
**
そして、国王オズワルトは、45年という短い生涯の幕を閉じた。
**
「ありえない! 何かの間違いだ!」
アズハルトは自失の状態から覚め、父の亡骸が横たわる部屋から飛び出す。すると、どこから伝わったのか、部屋の外に集まっていたらしい臣下達が一斉に頭をたれた。
「違う…っ、次の王は……兄上、兄上は!?」
気づけば傍に兄はおらず、見失ってしまった姿を探し、声を張り上げる。今にも駆け出していきそうな彼を、近くにいた臣下がやんわりと制した。
「アズハルト王子……いえ、陛下。これは先王の決定です」
「世継ぎに選ばれたのは陛下」
「先王は、遺言状で貴方を指名したのです」
臣下達は口々に肯定的な賛辞をアズハルトに贈る。昨日までの態度との明らかな違いに、彼は頭に血を上らせた。
「今まで兄上にたかっていた羽虫が、今更何を言おうと信じられるか!」
留める手を振り払い、兄を探しに行こうと足を速める。父を失った悲しみはこの状況への怒りにすり替わり、思考を沸騰させた。
「兄上、どこにいるのですか!」
「陛下」
聞きなれた声に、理性が引き戻される。声の先には、王立騎士団の黒い制服を着た、赤毛の騎士の姿があった。
「グランツ…おまえも私をそう呼ぶか」
「残念ですが」
いつもの調子で、皮肉気な言葉を返す兄の親友―――エミール=グランツ騎士団長の様子に内心胸を撫で下ろす。自分と同じように、兄こそ王に相応しいと思う人間が一人だけでもいたことに安堵した。
彼は、誰よりも、自分よりも長く兄の隣にいる。それは癪に障る事実ではあったが、逆に今は心強い。
「お前は、兄上がどこにいるかわかるか?」
「リヴィウスでしたら……」
今回ばかりは敬称を省いたことを咎めなかった。咎める余裕など、なかったのだ。
「兄上!」
視線の示す方向に現れた兄の姿に愕然とする。
「何でしょうか」
尊い身分の証である長い髪を切り落とした兄は、見たことの無いような顔で微笑んだ。
肩に触れる程度になった銀髪は不揃いで、王家の者にはそぐわない。兄が貶められたようで、アズハルトは激昂した。
「誰がやったッ!!」
傍にいた臣下の襟首をつかみ、詰問する。愚かな行為とわかっていても、激情が暴走して止められない。彼の目に留まった哀れな臣下は、目を泳がせ、首を横に振った。周囲の反応も似たようなものである。欲しい答えをくれる者は、一人もいなかった。
苛立ちにまかせて不運な臣下を突き放すと、なだめるような声がかかる。
「おやめください、陛下」
それは、被害者であるはずのリヴィウスの声だった。
穏やかで、優しくて、それでもどこか遠い、声。
「今、な…何、と……兄上?」
自分が耳にした言葉を信じられず、声を震わせる。弟の動揺にかまわず、リヴィウスは他の臣下のように頭をたれ跪くと、もう一度陛下、と呼びかけた。
「髪を切ったのは私自身でございます」
「顔を上げてくれ、兄上…!」
「王籍から抜けますゆえ、そのけじめとして切りました」
淡々とした声に揺らぎはない。他人のような態度に、アズハルトの感情は兄に矛先を向けた。理解できない状況、理解できない兄の言葉に対する、悲しみとも怒りともつかない感情が暴発する。
激情を止めてくれる者はなく、彼の手は、縋るようにリヴィウスの肩をつかんだ。
「兄上ッ! 何故だ…!? 何故、そんな……!」
しかしリヴィウスは動じることなく、穏やかな微笑みでその激情を突き放す。温度の低い声音に、かつての親愛は感じられなかった。
「もう兄ではございません。私はあなたの臣下なのです、陛下」
力の抜けた指をやんわりとひきはがし、立ち上がる。恭しく一礼すると、彼はその場を立ち去った。
「兄上!」
なおも追いすがろうとするアズハルトの腕を、傍らのエミールがつかむ。感情を消した赤味の強い茶の瞳が、髪と同じ真紅に見え、一瞬射すくめられた。
「邪魔をするなグランツ! 兄上、兄上が…」
「陛下はお疲れのご様子。自室で休まれるのがよろしいかと」
どこまでも冷静な言葉に苛立つ。何故冷静でいられるのか、この状況で!
「うるさい!」
手を振り払い、立ち去る背中に駆け寄る。今離れると、もう二度と兄に会えないような気がした。足音に反応したリヴィウスが振り向くと、アズハルトは、初めて顔に喜色を浮かべる。
「兄上……」
青と青。同じ色彩のの双眸が交わる。
それを断ち切るように、リヴィウスは感情の無い笑みを浮かべた。
「私もグランツ騎士団長の意見に賛成です、陛下」
茫然とするアズハルトを残し、踵を返す。彼はもう、二度と振り返らなかった
++++++++++++++++++++++++++++
最初からクライマックスだぜ!
…はいすみません。こんな感じでどろどろ進んでいきます。
ボーイズにラブってるというよりも、兄弟間の愛憎という感じなので、あまあまラブラブは無いです。絶無です。
甘さ控えめなどろどろ愛憎劇(男同士)が好きな方向けです(笑)はい白架の趣味ですねわかります。
そんなのですが、見てくださると嬉しいです☆