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腐女子が叫ばずにはいられなかった萌(腐注意)を綴る掃き溜め的不定期ブログ。自分の萌はマイナーな気がする今日この頃。ボカロ多め。たまにオリキャラ出没します。
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国王の葬儀、兄弟のそれぞれの想いは……
とりあえずアズどんまい。
追記に置きます。

 国王崩御から一月が過ぎ、その葬儀は盛大に行われた。
 王の死を嘆き悲しむ者もいれば、王のの功績を讃える者もいる。皆が亡き王を想い、語る中、アズハルトはただ兄の姿を求めていた。
「次期国王、おめでとうアズハルト」
 先ほどの涙はどこにしまったのか、彼の母は満面の笑みを浮かべる。黒いベールに下の表情に夫を悼む様子は少しも見られなかった。
「悲しくはないのですか、母上………先ほどは泣いていたのに」
「民の前で相応に振舞うのも、王族の務めよ」
 すました顔で演技と認める母に、アズハルトは溜息をつく。しかし、目を細めた彼女の言葉に目を見開いた。
「だから、リヴィウスを探すのはお止めなさい。落ち着きがなくて、みっともないわ」
 たやすく言い当てられ、視線を揺らす。父の葬儀だというのに、兄は、いまだ現れなかった。
 式典が終り、棺が運ばれていっても、一向に姿を見つけることができない。ルイーゼ嬢が落ち着くまで残ろう、と口実を作って留まったが、望みは薄いように思えた。
「貴方は王になるのだから、あの子に構うのはもう止しなさい。王籍を抜けるのなら、他人でしょう?」
「他人?……貴女が産んだのは事実でしょう」
 冷ややかな物言いに、語気を強める。まるで、兄には身分以外の価値はないとでもいうような言葉。あっさりと掌を返した臣下達だけでなく、実の母までもこうなのか。
「そう決めたのはあの子よ。どうして私を責めるの?」
 心外そうに眉をひそめる表情は、息子に絶縁された母親のものではない。ただの、『女』の顔だった。王族や貴族の子供はほとんど乳母の手で育てられるとはいえ、この女が『母』の顔をすることは一度もなかったと気づく。自分を取り巻く世界の歪みを、アズハルトは改めて思い知った。
(兄上は…この世界が嫌いだったのだろうか)
 今思えば、あの仮面のような笑みは、自分と親友以外に向けたものと同じ性質のものだった。
 第一王子という身分目当てに、必死に媚を売る男や女達。品定めをする高官達や、自分の享楽にしか感心のない母親。そして…自分を拒絶する、『父』。それらに境界線を引くように、兄は温度のない笑みを浮かべた。
 でも、自分と親友だけには違った。そこには確かにぬくもりがあった。
 頭を撫でてくれた繊細な指を思い出す。優しくて暖かい感触。兄より背が伸びた今でも、たまに甘やかしてくれるその手が好きだった。触れていると心が安らいだ。
 兄こそ自分の世界で、幸せの形だった。
 しかし――――それらをすべて否定したのもまた、兄自身で。
 最後に見た兄の姿を想うたび、軋む心が悪魔を産む。
 幾度否定しても、育つことを止めない暗い疑念。黒い感情。
 兄にとって自分は、簡単に手放せる…その程度の、存在だったと。兄が求めるのは自分ではなく、この手から、彼はいつでも飛びたてるのだと。
 それならば、その翼をもぎたいと思った。
 たとえ苦鳴をあげたとしても。痛みに息絶えようと。
(…嫌だ……私は………ッ!)
 無理矢理に思考を中断させる。このままだと、黒く醜い衝動が暴れだしてしまいそうだった。
 傷つけてでも傍にいてほしい。離れるなんて許さない。そんなのは、ただの我儘だ。わかっている。
 痛みが走るほど強く拳を握った。わかっているが…想うことを、止められない。
「じゃあ、私は先に帰るわ」
 沈黙する息子にそう言い捨てると、先王の妻だった女は、見知らぬ男を連れて出口に向かっていった。入れ違いに目を赤く腫らしたルイーゼが現れ、小さく会釈する。留まる口実がなくなり、アズハルトは仕方無くその場を離れた。
(……兄上)

**

 父の亡骸を静かに見下ろし、リヴィウスは声をあげて彼に縋った女の姿を思い出していた。王に愛され、また自分も王を愛じ、最期を看取った女。その一途な花のような心を王は愛したのだろうか。子ができなかったことは幸運であった。これで、彼女はこの醜悪な世界から去ることができる。
 手にある白い花をそっと棺に捧げる。辺りに人気はない。日もすっかり落ちて、薄暗い闇が辺りに漂っていた。冷えた空気に、肩が震える。
 親族は葬儀で棺に花を手向ける権利と義務があったが、彼は葬儀に出席しなかった。その代わりに、式典が終わった後、墓所に棺を納める前に少し時間をくれと無理を言ったのだ。少ししおらしい顔をすれば、役人達は簡単に承諾してくれるだろう。実際、その通りだった。
「父上…」
 花に埋もれた青白い顔を見つめる。最後に見た苦悶の表情を想像していたが、その姿には生前と変わらぬ威厳が満ちていた。
 リヴィウスが花を置いたことを確認すると、棺は閉じられ、運ばれていく。彼はそれを渇いた気持ちで見送った。
 死を悼む想いに飾られた骸は、これから埋められ、腐り、朽ちていく。そんなものか、と一人つぶやいた。ひどく投げやりな気分だった。
 最後に花を手向けたかったのは、棺が去るのを見届けたかったからでも、下らない感傷があったわけでもない。
 泣けないからだ。
 父親の葬儀に涙の一つも――演技ですら――流したくない、今の自分を見られてはいけないからだ。特に、兄を疑うことを知らない、愚かで幸せな弟には。
 きっと自分は今、ひどく冷めた顔をしている。しかしそれ自体を悲しいとは思わない。自分とあの男の間には、暖かな情など通わなかった。詳しく調べたことはないが、噂通り血の繋がりも本当にないのだろう。他の男と色に耽る母。色彩以外父にも母にも似ていない容貌。離宮での日々。そして、あの遺言。確かめるまでもなく決定的だ。
(あの遺言さえなければ、違う道があっただろうか…僕にも、エミールにも……アズ、にも)
 しかし現実は予想通りに進み、奇跡は起こらなかった。
 自分がどちらを選ぶのかはまだわからない。しかし、結果はどちらにせよ破滅だ。

「どちらにせよ、僕はお前を贄にするよ」

 その場を後にする――――――唇には笑み。
 

 それはまるで、泣き顔のようだった。

 

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